ほんとうはぜんぶ負けている

お金をためて黒い靴をひとつ買ったわたしは、2900円のエナメルのパンプスやムートンブーツを履くおんなのこにほんとうはぜんぶ負けている。肌の健康に焼けたおんなのこがわたしを白いと褒めたけど、わたしはほんとうはぜんぶ負けている。明るい茶色のこ、焦げ茶のこがわたしの黒い髪を褒めたけど、ほんとうはぜんぶ負けている。横光利一を読んでいたわたしは小悪魔になる方法という本を読んでいたおんなのこにほんとうはぜんぶ負けている。お店に飲みにきた大学の教授が「油絵がんばってね」とわたしに声をかけてくれたけど、店長に気に入られている他のバイトのおんなのこに、わたしはほんとうはぜんぶ負けている。寒い深夜にオリオン座を仰いできれいさに泣いたわたしは、あったかいベッドのなかの2人にほんとうはぜんぶぜんぶぜんぶ負けている なんでだろう なんでだろう今日のオリオン座のきれいさを知っているのはわたしのほうなのに なんで