今日の夕方、わたしは4階のアトリエで絵を描いていましたが、疲れたので部屋の外でつい昨日図書室で借りたばかりの分厚い本を読んでいると、どこからともなく、「花とアリス」の曲が吹き抜けの校舎の下のほうから湯気が上がるみたいに流れてきました。群青色の夕方に、ほとんど人のいなくなったアトリエの前で本を読んでいるという充実の時間に、大好きな映画の曲が流れてきたのでわたしは居ても立ってもいられない気持ちになりました。持っていたのは泉鏡花の全集、読み途中だった「陽炎座」のページに指を突っこんだままそれを片手にわたしは階段を駆け下りましたが、どこに走っても音のもとは見つかりませんでした。かゆいところがわからないときのようなかんじ。わたしは大好きな曲に包まれるばっかりで、全く近寄ることのできないまま、ちょうど階段の踊り場にいるとき音楽はぷつんと切れてしまいました。 音楽が切れるといろんな音が聞こえてきました。彫刻科の人が石膏を彫る音、階段を少し登ったところ、ちょうどわたしの背後にいる背の高い男の子がキャンバスをとんかちで叩く音。 アトリエに戻れば壁にたくさん貼りつけたわたしのちっちゃい絵が待ってる  ひとりぼっちの寂しさは、ものづくりに囲まれたしあわせで今日のところはさようなら