「このまましんじゃってもいいかも」とおもう瞬間は、なにも特別なときにあるとは限らない。もう買い替えどきのぼろぼろのヘッドホンでマイブラッディバレンタインを聴いていた、バイト帰りの夜道、小さな三角の敷地の公園に生えた、まるでゴッホが描いたみたいにきれいにうねった松の木が、うしろの団地の光をキラキラ透かしてみせていて、「このまましんじゃってもいいかも」とおもった。「こんばんはー、こんばんはー」と言いながら歩く変なおじさんがみんなに無視されていたので、通り過ぎざま「こんばんは」と言ったら、おじさん振り返って「こんばんはー!」と言っていた。