働きはじめて半年、やっと少しの余裕ができて、カーテンを買いかえた。刺繍の入ったレースのカーテン。わたしの買った、刺繍の入ったレースのカーテンが揺れている。 刺繍の入ったレースのカーテンは、わたしの思考をゆるさない。働きはじめてからの半年で、新宿ではひとが燃えたような気がする、美術館にいくたび、わたしは涙を落としていたような気がする、男の人からきた何十件もの着信で、怯えていたような気もする。 すべては刺繍の入ったレースのカーテンが、揺れるたびにかき消していく。いったいそんなことあったかな。揺れるたびに消えていく。 「あなたにあったのは、働いたことと、買ったこと。働いたことと、買ったこと。」