わたしのだいすきな画家に、ピエール・ボナールがいます。ボナールの絵のモデルはほとんどが妻のマルトでありました。マルトはじぶんの本当の名前を何年も隠し続けたうえ、病弱で神経質で、また極度の潔癖症で一日のほとんどを浴槽で過ごしたといいます。その彼女をボナールは対象として描きつづけました。
絵を描く一生のうつくしいモチーフ 対象 を見つけたボナールに、わたしは絵をかくひととして憧れます。またわたしはおんなのひととして、マルトに憧れます。つきはなすように、じっと画家に傍観し続けさせた彼女は、それほどの魅力を匂わせていたのでしょう。
だからわたしは、わたしが絵をかくひとだということを隠し、画家と結婚して、モデルになりたいです。夫の知らないところで、夫の姿をいっぱい描きためて、わたしは夫より先に死にます。わたしが死んだあと、あなたの姿を描いたたくさんのわたしの絵をみつけてね そしてもっといいえをかいてね