動物園に行った。ゴリラはわたしたちに背を向けるかたちで、ガラス越しすぐそばに座っていた。わたしたちもそこにしゃがんで、たまにこちらをちらちら見るゴリラの、黒い鼻の質感を見ていた。そうすると2,3才の女の子が、お父さんお母さんと一緒に、わたしの隣にやってきた。女の子がにこにこ、わたしの顔をじっと見るので、わたしもにこにこ見ていると、その子のお父さんが「ゴリラを見るんだよ」と言った。
なんだかわたし、わたしの、ひりひりした部分、痛い部分がたぶん少しずつ薄くなっている。 それは良いことか悪いことかわからない。 白がとんでいるような儚い色の映画だけじゃなく、すごく現実的な色の映画、肌なんて少し灰色がかってしまっているような色の映画も、美しいと思うようになったよ  ロマンチックじゃない世界に落胆することはもうあまりなくて。そこは匂いにむせかえるようなドラマチックなところだと、いまは期待する。