智恵子になりたい

忘れちゃいけない。忘れちゃいけない。  わたしは、智恵子になりたいんだった。わたしは光太郎を探しているんだった。わたしが、今のわたしのように弱って、病床に伏せっていたら、ガリリと檸檬を噛むわたしを見て、あ トパアズ色の香気が立ったと、思って、文字に起こしてくれるようなひとを、探しているんだった。     原発を調べまくり、自分の考えを持とうとするわたしは、智恵子に程遠い。澁澤龍彦には、「女の意思による精神的コミュニケーションは、私たちの欲望を白けさせるものでしかない」と言われる。        描かれた空っぽの女のひとに憧れる。   描かれるためには、男のひとにとって、理解不能な存在じゃなければならず、男のひとのフィールドに足を突っ込んで自分の考えなんかを持とうとしてるわたしは、きっと智恵子になれない。