こんなことになってしまったのは、図書館でモネやドガの画集を借りて、小学生のわたしに見せてくれたお母さんのせい。わたしと一緒に絵を描いてくれた、いとこのお兄ちゃんのせい。 中学1年生のころ星新一を読みすぎたせい。中学2年生でよしもとばななツグミが退屈で、三島由紀夫で震えて、太宰治で泣いたせい。 たくさんの美しいところへ連れて行ってくれたお父さんのせい。春には白いタンポポを一輪見せてくれるあの山のせい。まるでニュージーランドみたいな、阿蘇の輝く高原のせい。さわったら死んでしまうホタルのせい。虹色に回るお盆のぼんぼりのせい。腐ったビワの、甘い香りのせい。行儀に厳しかった、おじいちゃんのせい。わたしのお香こを食べる音をいつもほめる、もうひとりのおじいちゃんのせい。 たけのこを掘ったあの記憶のせい。じゅげむを暗記したせい。同志社大学の、きれいなレンガの色が、わたしの網膜を今も焼いているせい。ドラえもんのび太のせい。 ひとり東京でみたあの映画のせい。夜中までわたしを笑わせた、伊集院ひかると、爆笑問題と、くりいむしちゅーのせい。この、病気のせい。授業をぬけだし音楽室、靴下を脱いで触ったワックスの冷たい床のせい。ショパンを教えてくれたピアノの先生のせい。 あの下で育ち、あの下を制服で登校した、桜並木のせい。蜜柑を食べるわたしのほっぺたを乾いた風できり、流れる涙は湿った風でなでつけていく、あの海のせい。  ふたりがわたしをのぞきこんで、和歌みたいな名前をわたしにつけた、あのときの、魔法のせい。あるいは、呪いのせい。        わたしをこんなことにしてしまった、すべてのものへの感謝でくるしい。でも、ごめんなさい、わたし、どうやらほんとうに、ほんとうに、駄目な人間のようです  山も海も桜もタンポポも、どうでもいいのだって社会が言う ごめんなさいわたしのすべての愛しいもの ベッドで泣きながら赦しを乞う