「右へ駆けた彼に銃弾が当たって、左へ駆けた僕へは当たらなかった。いったい彼と僕に何の差があっただろう。」生き残った人たちのなかで、死んだ彼へ思いを馳せるのは幾人くらい。  彼と僕の、その一身に背負った希望に、期待に、その輝いた目に、いったい、違いなんてあっただろうか。    彼が死なずに大人になっていたのなら、一体どんな絵を描いていただろう、どんな音楽をかなでていたろう、素敵な先生になっていたかしら、慕われる、お医者さんになっていたかしら。    ひとの人生なんて、関係ないんだろうか。誰とも交わることなんてないのだから。     小学校で、隣の席だった、いつもぼろの服を着たあの男の子は、いまどこへ。