祖父 2

実家の2階のわたしの部屋、ベッドの上で膝立ちをして、南向きの窓から外をよく眺めた。一番手前に椎やツツジやしだれ桜のある庭が、柿の木の向こうに畑が見え、道路を挟んだところにお隣の田んぼが、その向こうに靴屋と本屋と日産が見えた。遠くのこんもりした丘を越えれば海だ。   小学生のころ、家に帰ると部屋の机でまんがを描いた。犬のまんがと、うさぎのまんが。描き飽きて、その日もぼんやり外を眺めていた、夏のはじまり、夕方、4時くらいだった、いつものように、祖父が畑仕事する姿が見えた。   日産のほうから、小学校のソエダ先生が集団下校の子どもたち数人をつれて歩いてくるのが見えた。ソエダ先生は、30代半ばの女の先生で、長い茶色の髪の毛がぱさぱさとしたひとだった。先生は、どうやら、お隣の田んぼの、その青々とした稲について、子どもたちに話しながら歩いていた。いやなかんじがした、ソエダ先生が、だんだんと、畑にいる、わたしの祖父に近づいていた。  ソエダ先生の声がした。「こちらの田んぼは、お宅のなんですか?」 体のなかに、泡が立った。 「こちらの田んぼは、お宅のなんですか?」ソエダ先生がわたしの祖父に声をかけた。 祖父は答えていたけど、その聞き取りにくい言葉を、ソエダ先生がわかるはずなかった。ソエダ先生がうろたえながら聞き返す声がしばらくしたあと、祖父の怒鳴る声がした。    あーあ、今日の窓はさいあく。    近所のお年寄りに気さくに声をかける姿を子どもに見せたいというソエダ先生の気持ちが透けて見えてきもちわるかったし、それにわたしの祖父を採用したために、怒鳴り声を浴びせられソエダ先生の目論見がぶちこわされたのも、またその様子を見ている子どもたちの表情も、すべてがきもちわるかった。  カーテンを閉めて、ちょっと泣いた。