世界のすべてがいとしい。ガラス張りの校舎に映る真っ青な空。隣の学校から聞こえる、異国の歌。コンクリートの校舎の、地下から立ちのぼる、金槌で石を叩く音。木彫のアトリエから吹く、鼻をむずむずさせるような木の香りの風。高校生のころ、制服でF15号のキャンバスを担ぎながら自転車に乗った、あの重さ。水張りテープの、あのべたべた、水張りを失敗したときの、あの四隅の、ふくらみ。テレピンのにおい、ペトロールのにおい。夜10時のアトリエの、しずけさ。すべてがいとしい。世界のすべてがいとしくて、すべてに、「すきですよ」「すきですよ」と言ってまわりたい。そうしたら、「そうですか」「そうですか」と言ってね。