「俺のこと分かってるひと世界中にいない」と言うので、「みんな分かるひといない前提で生きるよ。わたしはあなたのこと分からないし、あなたはわたしのこと分からないよ。でもそうだから、ひとは優しくできるんでしょ?」と言うと、彼は「無償の愛がほしい」と冗談混じりの苦しそうな顔で言った。わたしには応えられないと思った。わたしにできるのは煩悶いそがしいあなたを横目にカレーをつくること。こくまろだけど、ひと晩ヨーグルトに漬けた手羽元いっしょに煮こんだからおいしいよ。できあがったカレーを食べてあなたは、「観念にかわって、生命が訪れてきた!」と言えばよい。そしたらふたりは大勝利だ。そしたらふたりはきっと大勝利だった。