旅行 いなか

電車には、大きくわけて、田んぼの真んなかを走るものと、森のなかを走るものとがあった。 田んぼの真んなかを走る電車は、目じるしのようだった。むらのひとたちに見守られているようだった。登校中の高校生でいっぱいだったけれど、ある駅で、あれはきっとなんらかの決まりが設けられているんだとおもう、ずいぶん淡々と、順序よく、ひとり残らず降りていき、車内はがらんどうになった。ひろい田んぼの真んなかだから、遮るものはなにもなくて、黄色い太陽のひかりが、みどり色のシートに落ちていた。 森のなかを走る電車は、電車だけのためにそのサイズに切り裂かれた森のすきまを縫う。ここはひとの住むところとはちがう場所。森は知らない顔をしてる。先頭の窓はワンマンの運転手さんの背中に隠れてそのゆくさきはよくみえない。左右の窓につぎつぎ映る、そのスピードでびやっと引きのばされたいろいろの緑が、もう通り過ぎてしまった、どうしようもできないものとしてわたしを包む。どこかの駅から、おばあちゃんとその孫の女の子が乗っている。誰もいない森で倒れた樹の音はするの?そういえば、電車のごうごうという音も、いつの間にかきこえなくなって。